クレーム実例、顔合わせの価値

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クレームも色々ですが、中には、「それはこちらに言われても・・・」という理不尽なクレームもあったりするわけで。私が経験した珠玉のクレームはなにかお酒の席の話しの種になりそうなのでいくつか紹介します。「一生に一度の席だから」

この日は、当店で顔合せが行われました。顔合せと言っても、ビジネス上の接待的なものではありません。結婚前にお互いのご両親を招いての、結納めいた席と言っても過言ではありませんでした。最近は婚約時に結納式をするケースは少なくなってきたように思います。その代わり、飲食店でご両家が婚約前に顔合せをするケースは多くなってきたようです。

さてさて、いよいよ顔合せが始まりました。

当然、当人同士も親御さんも少し緊張気味です。うまくいくといいですね。なんてお店側からすればほほえましい限りです。

宴席はつつがなく、順調に料理は進むのですが、どうにもこうにもご両親が今ひとつ表情が固いままです。

わかるような気がします。おそらく実直一筋に生きてきた女性のまるでどこかの会社の役員ぽいお父様と、今流行の顎鬚を伸ばした、今にも自分の思いをラップにしてしまいそうな女性の彼氏、そしてあけすけにざっくばらんな男性側のご両親。

男性側のご家族が盛り上がれば盛り上がるほど対照的に、女性側のご両親が静かに、かつ表情が死んでいきます。経験上よくわかります。おそらくこの顔合せの席の前からこの話を歓迎していないのでしょう。はっきり言って時期早尚の顔合せのように思えます。

こちらとしては、打合せの時点で、「料理に関しては、時間があるのでゆっくりお願いします」と言われていたので、料理の流れが途切れない程度にゆっくりと進めていたのですが、女性側のご両親が、今日は用事が出来たとの事で、料理の途中だったのですが、お帰りになると言い出しました。

まだ、コースの中頃だったのですが、ご両人から「早く残りの料理を出してくれ!」と急かされたので、予定を変更して、残りの料理を急ぎ調理場に作らせました。

しかし、結局全ての料理は間に合わず、コース途中で女性側のご両親は、新幹線の時間があるからとお帰りになってしまいました。

こちらとしては最善を尽くしたのですが、後には気まずい雰囲気だけが残りました。

次の日のことです。

男性の方から電話が来ました。口調は完全に怒り心頭です。最初に受けたアルバイトさんが涙目になるほど、そのクレームは激しいものでした。

「おいこら、お前が店長か。どうしてくれるんだ貴様。お前が昨日の席の前に、あっちに帰りの時間とか確認しとかなかったせいで、折角の席が台無しだろうが。こっちは一生に一度の思いで席をセッテイングしたんだ。はっきりいって台無しだ!謝ってすむ問題じゃねえぞ!」

・・・・。あまりの激口にたじろぎましたが、こちらとしては予約の時点で料理のペースは伺ってました。ですが、こちらの弁明は聞く気も無いようです。

「台無しになった席の金をお前ら黙って持っていくつもりか?こっちはビタ一文払いたくなかったよ。それでどうするんだ?あ?てめいらのせいで・・・・。」

何てことでしょう。自分達の打合せ不足を完全にこちらの落ち度に落とし込もうとしておりました。私から言わせてもらえれば、はっきり言って、そちらの準備不足と空気の読めなさが招いた事件にしか思えないのですが。

「こちとら食ってもいない料理に金払ったんだ!あの時はしょうがねぇから。金返せこの野郎!てめぇ!ふざけるのもいい加減にしろ!」

一応、法律上では金銭的なものを脅迫気味に要求することは、「脅迫罪」として訴える事も出来るのですが、正直な所、こっちも忙しいのにこんな輩に付き合ってられるほど暇ではありませんでした。

会社に相談した所、こちらには何一つ不備はないので、その要求には応じる必要はない、との回答は帰ってきました。ところが、時を同じくして、今度は女性側からクレームのメールが本社に送られました。その内容は、「こちらが意図的に料理を遅くした、サービス担当者の態度が自分たちを馬鹿にしているような態度だった」、と事実無根の内容を長々と書き綴ってました。

勿論、そんな事は無かったと会社には説明しましたが、ここまでこじれた以上、これ以上揉めても長引くだけだと言うことで、会計を「食べなかった料理の分だけ」返金するように指示されました。

私としては納得しかねる案件でしたが、さっさとこの客とは関係を切りたかったので、早速形式上のお詫び分と、返金額を現金書留に入れて送りました。

「いやいや、自分達が正しいのなら、徹底的に戦うべきだ。」

そういう意見もありましょう。ですが、何度も言うように、飲食店の店長はそんなに暇ではありません。たかだか1,2万円、勿論それも大事なお金なのはわかりますが、それを死守する為に、それに関わる人間もただではありません。むしろ、お金で、それに変えられない時間が守られるのなら、割り切ることも必要だと学ばされた一件でした。

ちなみに、その方はそれ以来来店してません。きっと全額返金しても来なかったでしょう。にもかかわらず、昨今ではクレームに関して、最後まで神レベルの対応が求められているようですが、対応してずっと顧客になってくれるかそうでないかを見分ける事も私は大事だと思います。

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